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恋愛の処方箋

作成年月日
2006年02月20日 03:25

昨日徹夜であるスレッドのまとめサイトを読んでしまった。2ちゃんねるのスレッドはノイズが多く、リアルタイムで見る気にはなかなかなれないのだが、有り難い事に良く出来た(「クオリティが高い」と言われる)スレッドは有志の人間が読みやすいように発言者の色分けまでして保存してくれるので、そういうまとめサイトを通してこれまで何度かこの手のスレッドの残滓を楽しんできた。(余談だがこの「VIP」と呼ばれる界隈にたむろする連中の気の良さは見ていて気持ちがいい。専門用語が多いので読むのが大変な人もいるだろうが)

未見の人の為に詳しくは書けないが、告白するとこのまとめサイトを読んでいる間中、そのほろ苦さと甘酸っぱさに悶絶しっぱなしだったのである。登場人物以外が映らない映画や漫画では、この感覚は共有出来ないのではないかな。資質の問題もあると思うが俺自身はフィクションの世界の色恋沙汰に殆ど共感できない。

スクリーンやページ越しに恋愛中の「どうにも胸がもやもやして相手の背中が目の前にあると後ろからギュッと抱きしめたくなるのを心の中で『くわぁっ』とか言って我慢するような……って何を言ってるんだ俺はぁっ!」みたいな感じを得られる事が少ないのである。(かろうじて「永遠の野原」(逢坂みえこ著)でそれに近いものが味わえたくらいか)

「好き」という気持ちは皆が共通して理解できる心の働きと言われるが、実際はその気持ちは他人では置き換え出来ないほど個人的な物なので物語の中で描かれる恋愛は自分にとっては「この人はこの人が好きなのね」という「設定」としての情報しかもたらさないのである。もしこのまとめサイトの中から兄以外の発言を全て消して読んでみれば、そこには平凡な物語しか残らないだろう。外野の存在が主人公(兄)から特別性を奪い、スレッドの中では他の人間と等価の「1発言者」に貶める事で初めて、彼の経験した事、彼の胸に去来した感情が「ごく当たり前のどこにでもあるもの」として恐ろしいほどのリアリティを獲得出来るのだと思う。

彼が経験した事は(それが真実かどうかはあの界隈では問題にされない)紛れも無く自分自身も経験した事であり、それが余りに鮮烈に過去を想起させるので一晩悶絶する羽目になったのだが、おかげでちょっと目が覚めた。結婚して子供も生まれて家の中で自分を飾らずありのままに過ごせるというのは確かに貴重で有り難い事なのだが、だからと言って恋愛をやめる必要はないのである。ちょっと背伸びしてみたり、相手の事をもっと良く知りたい、知って欲しいと思う気持ちは持ち続けていい。恋愛感情は場合によっては自分や他人を物凄く疲れさせるので、結婚してそれから解放された事を嬉しく思っていたりもしたのだが、「そうは言っても恋愛もいいよなぁ」と思い出せるくらいの破壊力だったのだ。

女房に上記のサイトのアドレスを送り、目論見どおり悶絶させた後で、二人してそんな話をした。うはー、色恋沙汰についてこんなに喋ったのは初めてだな。恥ずかしー。