unlimited blue text archive

兎の皮を被った狼

作成年月日
2005年12月26日 07:14

色々なアニメを貶したり褒めちぎったりして来たが、実は隠していた作品が一つある。何故その作品についてこれまで触れてこなかったかというと、一つには消化話数の問題があった。昨日放映されたのが第39話。もう今更これを紹介してみたところで既に手遅れだろうと言う事もあって封印していた。

さらに、信憑性の問題もあった。おそらくこの日記を読みに来てくれる人の中に、この作品を毎週チェックしている人間は居ないだろう。パッと見ただけだと30代男子のストライクゾーンを8m位逸れて行きかねない風体なので、推してもきっと信じて貰えないと思ったのである。実際放送開始時に第1話を友人に観させたのだが、評価は散々だった。勿論その友人が間違っていたのだが、それを証明する手段が無かった。しかしまぁ、もういいだろう。そういう瑣末な事を気にして自分に枷を嵌めるのはやめよう。お待たせしました、2005年度ナンバーワンアニメ(暫定)はこれだ。

「おねがいマイメロディ」

ふぅ、スッキリした。

30代男子は知らないかもしれないが、この兎は「マイメロ」といって、サンリオ古参のキャラクターなんだそうである。この「マイメロ」をテレビオリジナルの設定でアニメ化したのが本作だ。放送開始前は自分も含めておそらく日本中の人間が、サンリオが自社の売り上げを上げる為に立ち上げた、グッズ販売目当てのお子様アニメだと思っただろう。実際サンリオのトップはそのつもりでゴーサインを出した筈である。

ところが放映された第1話を観てみると何かおかしい。主役のマイメロはのっけから冤罪でおとぎの国を放逐されるというハードな設定である。スポンサーのサンリオを嘲笑うかのように回を追う毎にマイメロの扱いは酷くなって行き、我が家でも最初は「こんなことして大丈夫なのか」と心配していたが、途中から「あぁ、きっと同時に2本作ってサンリオにはまともな方を渡しているんだな」と納得するしかなかった位だ。

ブラックなテイストと飛び道具のギャグで笑わせつつ、お話自体もしっかり練り込んであり、毎回予想の上を行く展開で楽しませてくれるのだが、この作品の本当に凄い所はそういう一話単位の瞬発力ではない。じわじわとボディブローの様に効いて来るシリーズ構成の上手さが真髄である。

キャラクターの心境やポジション、パワーバランスは僅かずつではあるが、結構な頻度で変わっていく。シリーズ構成がコントロールしきれていないと、その「変数」が回によって逆戻りしたり先走ったりして話に一貫性が無くなってしまうのは、同時に何話も平行して制作せざるを得ないテレビアニメでは良くある事だ。「この前仲直りしたのに、また同じような事で喧嘩してる」とか「真理を悟った様な事を言っていたのに実は何にも考えていなかった」といった事例は、2クールを越えるアニメでは頻繁に目にする。

また「前半は退屈だったけど後半は目まぐるしかった」とか「中盤でダレた」というのもシリーズ構成の責任である。いつまでも同じ所をぐるぐる廻っていたのではすぐに飽きてしまうし、余りに状況が目まぐるしく変わると、こちらの予想する余地も生まれない為「置いて行かれて」しまう。実はシリーズ構成が完璧な仕事をしている作品を今まで一度も観た事がない。この「おねがいマイメロディ」以外では一度も観た事がないのである。

クールの節目(13話、26話、39話)にターニングポイントとなる話を入れつつ、その間も細かい状況変化が適度な間隔で起こる。しかもその変化は小さいながらも不可逆で、決して不用意に前の状態に戻ったりはしない。一度気付いた事は忘れない、乗り越えた事では悩まない、決裂した仲がいつの間にかうやむやにされたりはしない。荒唐無稽な設定とは裏腹に(あるいは「だからこそ」なのか)作中の時間軸と物語は恐ろしいほど厳格に組み上げられている。一見ファンシーアニメを装っておいて、実は笑いの瞬発力とストーリーテリングの持久力の両方を兼ね備えている凄いアニメなのである。

今から本放送に追いつくのは無理なので、是非レンタル屋でチェックして戴きたいと思う。