unlimited blue text archive

嘘から出た真

作成年月日
2005年12月22日 04:33

もう少し早く出かける予定だったのが、色々とスケジュールの変更を余儀なくされて、結局クリスマス目前に立川まで買出しに行く羽目になった。大きな声では言えないがサンタさんがくれるプレゼントの調達である。

自分が何歳の頃までサンタを信じていたのかは記憶に無い。技術畑の父親は何事も科学的に説明するのが常で、雷が鳴ったらおへそを隠しなさいという民間伝承を言うよりも先に、雷の発生の仕組みを滔々と説明していた。そんな家だったので物心ついた時にはクリスマスとは親におもちゃを買って貰える日だと認識していた。サンタが実は親だったと知ってショックを受けた記憶は無い。

その方針に別に不満は無かったのだが、俺は人を騙すのが大好きな大人になってしまったのでこのイベントを見送るわけにはいかない。それはもう、何年もあの手この手でばれない様にしようと今からワクワクしているのだが、心のどこかで「いつか訪れるXデーにどう対処しようか」と悩んでいたのも事実である。なにせ自分にその経験が無いので、それがどんな気分なのか想像がつかないのだ。イヤ、なんとなく想像はつくのだが、その時のショックは毎年見知らぬ訪問者を心待ちにする時間を排斥するに足る程のものなのかどうか、その加減が今ひとつ量れなかったのである。

けれどもその問題は「苺ましまろ」のおかげで解消した。この作品の最終回で語られた事は、その謙虚な語り口の為色々な解釈が出来ると思うのだが、要は「信じる人の所にサンタはやってくる」という事なのだろう。

クリスマス・イヴの夜に世界中の家を見張っていた訳では無いので断言は出来ないが、おそらくトナカイが牽く空飛ぶ橇に乗った赤いコスチュームのおじいさんは居ないと思われる。そんな人外の存在を認めるわけにはいかないけれども、そのおじいさんを信じている子供を見ると、誰かがその夢を守ろうと思ってしまう。

それは近所の女子大生のお姉さんかもしれないし、学校の先生かも知れないし、その子の親かもしれない。その人は普段は別の仕事に就いているのに、12月24日だけ別口のアルバイトについてしまうのだ。サンタクロースというアルバイトに。

結果その夜、世界中でサンタクロースが発生する。子供をがっかりさせないようにいそいそとおもちゃ屋やデパートに出かける彼等は、橇に乗ってなかったり赤い服を着てなかったりするかも知れないが、正真正銘のサンタクロースである。「信じている人の所にサンタはやってくる」という言葉は、正確に言うと「本家のサンタを信じている人の所には、臨時のサンタがやって来ずにはいられない」という事だ。期間限定だがサンタクロースは唸るほど居るのである。それは空飛ぶ老人が居る事よりも、貴重な事だと思う。

そう考えれば別に悩む必要は見当たらない。この物語を彼女に語れる日が待ち遠しいくらいである。いつか彼女が真実を知り、ちょっとはガックリ来るかも知れないが、さらに年月が経って誰かのサンタクロースになろうとした時に、「なるほど、こういう事か」と思い出して苦笑いでもしながら、毎年繰り返されるこの微笑ましい物語の担い手になってくれたら幸いである。