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作成年月日
2005年12月15日 01:25

3回続けてアニメ話と来たからには、俺はもうダメかも知れん。見過ごせないニュースが続くのはどうしてだろう。こっち方面に興味の無い方にはつくづく申し訳ないが、しょうがないので行ってみよう。

はい、これ。WEBアニメスタイルで始まった湖川友謙のインタビューである。

「伝説巨神イデオン」が無かったら、自分は今のような生活をしていない。アニメにはまったり自分で絵を描いたりはしていなかった筈で、それはすなわち富野喜幸(当時)のせいだ。あれのせいで人生が狂ったと言っていい。

子供の頃から絵を描くのが好きだった訳でもなく、描いてみたら意外な才能が隠れていた訳でもない。早々に挫折して然るべき道に踏み込んでしまった訳だが、狂ったなりの人生に、撤退戦ではあるもののある程度の弾薬を以って臨む事が出来たのは、その「伝説巨神イデオン」でキャラクターデザインをしていた人、湖川友謙のおかげなのである。

昭和60年というと、自分は16歳。高校1年か2年の時だが、湖川友謙が一冊の本を出した。本のタイトルは「アニメーション作画法 デッサン・空間パースの基本」。広島の片田舎に住んでいた自分はおそらくアニメ雑誌の広告でこの本の刊行を知り、出版社に通販で申し込んだのだろう。当時はアニメーターになろうと思っていたし、上手くなりたかった。しかし今のように漫画やイラストのHOW TO本が溢れかえっているご時世ではなく、何から何まで独学でやるしか無かった頃だ。すがる様な思いで注文したのである。

そして届いた本の中身は宝石だった。その本当の価値が分かるのはまだまだ後の事なのだが、そこに描かれている内容は当時の自分にとって何から何まで新しく、また簡潔で理に適っていた。

人物の立体を捉える時の間違ったやり方と正しいやり方。陥りやすい罠、気付かない法則。空間パースのロジック、アイレベルの設定の仕方。目と目を結ぶ線が常に直線であるべき事、面に接する円の傾きが人間の直感に反した角度で現れる事、耳の位置、大きさ、全てが確かな実例と共に説明されていた。

たった142ページ程の本だが、その有用性は描く絵の種類を問わず、また真実であるが故に今でも色褪せない。この本を読む事で20年分は回り道をしなくて済む位である。それぐらい凄い。嘘ではない。漫画アシスタントをしていた頃、行く先々で平面に間違った円(車のタイヤや天井のライト)が描かれた原稿を見てきた。テレビアニメでもしょっちゅう見る。20年前に正しい方法が公開されたにも関わらず、それを知らずに絵を描いて来たせいで未だに正解に辿り着けない人間が山ほどいる事がその証である。

もしこの本を16歳の時に1800円出して買っていなかったら、今こうしてここには居ないだろう。正しい絵がすなわちいい絵ではないが、正しい事はとても大きな助けになる。

そういう訳で「誰に絵を習ったか」と聞かれて名前を挙げられるのはこの湖川友謙だけであり、そんな人間は俺の他にもきっと山の様に居る。最近その名前がクレジットされているのをとんと見かけないが、今でもこの人は自分にとっての恩人であり、先生なのである。

追記

『アニメーション作画法 新装改訂版』が発売される事になった。「デッサン・空間パースの基本と実技」と書いてあるので『基本編』と『実技編』を1冊に纏めたのかな。ともあれこれまで絶版で入手が難しかったので持ってない人にとっては助かるだろう。買えない本を薦めるのも気が引けていたのだ。