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アメリカン・ジョーク

作成年月日
2005年11月11日 04:18

先日放映された「NHKスペシャル」がなかなか刺激的だった。現在の神経科学の最先端をリポートした物で、つまりサイボーグ技術がどの位実用に近づいているかという内容だ。

ついに人は筋肉に伝わる電位越しではなく、直接脳細胞の電気信号を翻訳して機械を動かすことに成功した。その辺りのドキュメントはどれも知的興奮を誘うのだが、番組終盤に収録されたアメリカ国防総省の映像がまた、別の意味でなんとも刺激的だ。アメリカ国防総省にDARPA(高等研究計画庁)という部署があって、要するに経済的な価値だけでなく軍事的にも有用なサイボーグ技術でアメリカが遅れをとる事は許されるものではなく、その為の研究を推進している部署という事だ。

サイボーグ技術を使って兵士の能力を飛躍的に向上させるぜ!と意気込んでいるのであるが、そのセレモニーのスピーチがなんとも晴れ晴れとしているのである。日本ではとてもあんな風に意気揚々と人体改造による戦力の最適化を謳う事は出来ない。改造兵士の悲哀は漫画だけでもさんざん描かれてきた。本質的にこの国では戦いの為の人体改造に対してネガティブな感情がある。ところが、そのDARPAの演壇で熱弁を振るう長官や軍事科学者(ブロンドの髪がキラキラ光るお姉ちゃんである)は、輝かしい未来を夢見て目を輝かせているのである。

実際金になると分かった時、軍事的に役立つ事が分かった時のアメリカの技術開発力は強い。今世界に起きている憂鬱な事象も、この国に「これは金になりますよ」と思い込ませる事が出来れば、全て半世紀の内に解決してしまうのではないかと思うくらいだ。

そして、これもまた実にアメリカらしいニュースなのだが、シアトルのDiscovery Intstitute(発見研究所)とやらが提唱した「Intelligent Design(知的計画)」を学校の授業で教えるという事をカンザス州の教育委員会(また教育委員会か……)が認めたそうである。

進化は何者かの計画により(Gから始まるあの方の事を言いたいらしい)起こされた出来事であるという、「ちょっと待てやオイ」と言いたくなるような話だが、ブッシュ大統領が支持した事に後押しされたのか、ついにカンザスでは学校でこれを提示する事になったわけだ。

宗教界の圧力が相変わらず絶大であり、また国民全体もある種独特な宗教脅迫観念が根強い事を物語るエピソードだが、創造論を授業に組み込もうとする動きがある一方で、別の省庁は神様が創りたもうた人間の脳みそに電極を挿し込んで、改造兵士部隊を作ろうとしているのである。

この国が開拓した先端技術は不公平なルートを辿りながらも、世界中にいる沢山の人にとってきっと福音となるだろう。また更に進化した軍隊を以って世界の治安を守らせろと言っても来るだろう。けれども、その世界一の技術と軍備を誇って先進世界の覇権を主張するこの国は累積淘汰も理解出来ずに創造論にしがみつく輩がヒエラルキーの上の方で跋扈するような国なのだ。

現実の話でなければ意表を衝いた良い冗談なんだがなぁ。