本日愛知県にお住まいの方から自家製の梅干しと蜂蜜が届きました。「そんな報告はtwitterでやれ」と言われそうですがこれ以前書いた「情報と形質の相克」の後日談になるので。
先の記事で書いたように、「紙媒体と電子媒体をどう取り扱うか」という問いに対して、私は「紙媒体はそれを買う人の物語性が最大限になるよう配慮する」という答えを出しました。この場合の物語性とは「買う人が主人公になれること」です。
その為、作った本は人にあげたり、通販に卸したりという事はしませんでした。「その即売会に足を運んでお金を払う以外に本を手に入れる方法はない」というルールが設定される事で、「ネット上でなら無料で読める本」に価値を与えたかったんですな。
ところがその後、沖縄にお住まいの方から本を買いたいのだけどと言われまして。私ちょっと妄想しました。沖縄……青い海……白い雲……それはなかなか物語性高いのでは?と判断し、お代をいただかない代わりに数冊送って「もし他に欲しい人が現れたら差し上げてください」とお願いした訳です。
自分の漫画が沖縄の空の下で誰かに貰われる日の為にスタンバイしている、というシチュエーションは、このサイトの「いつか訪れるかもしれない誰かの為に」というコンセプトに良く似ていて何だか楽しくなって来ました。即売会に行かないと買えないどころではない、沖縄まで行かなきゃ手に入らないのです。それは、東京で引きこもりをやってる自分から見ればRPGの如き様相であるなぁと。
で、愛知にお住まいの方が沖縄のその方の所に遊びに行った折にその本が1冊手渡され、楽しかったのでお代の替わりにと、自家製の梅干しと蜂蜜を送っていただきまして。面白すぎて書かずには居られなかった訳です。だって、東京で作った本が、沖縄に置かれて、お代が梅干しと蜂蜜になって愛知から届いたのです。本を買う人の物語性を損なわせない、という目的の為に始めたある種の実験でしたが、正直それを最大限発揮されたのは本を買う人ではなく私でした。
即売会では10年程度会場に足を運んでいなかった昔の読者の方がわざわざ足を運んでくださり、昔とはだいぶ違ってしまった今の私の漫画を読んで大層笑って貰えた事、そして今回届いた梅干しと蜂蜜で、この本の仕事はもう終わりにしていいかなと思いました。先日発売された「COMITIA CHRONICLE」に収録された漫画も、おそらく多くの人の目に触れた事で、20年程度の時間はかかったけれど、やっと約束を果たす事が出来た。
どちらも別に私が何かした訳でも無いのに、何故か収まりのいい所に落ち着いたなぁ、と、少し不思議な気分も味わっています。なんであれ、物語は終わるのだなと。
この物語ももうすぐ終わります。まだ「ケリ」が付いてない事も多いので、それらをひとつひとつ、ちゃんと終わらせる為に、ちょっとだけ頑張らないと。
あ、梅干しと蜂蜜は超美味かったです。そう言えばそれを自慢したかったんでした。