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果てしない物語(アーマードコア・フォーアンサー)

作成年月日
2008年10月03日 07:21

気が遠くなる程間が空いてしまったのには幾つかの説明し難い理由があるのだが、その空白にピリオドを打つ気になったのは、やっとこのゲームにまつわる話をしても良いと思える出来事が今日起きたからだ。その事をこれから書こうと思う。作品の名前は「アーマードコア・フォーアンサー」。XBOX360とPS3で発売されているソフトだが、勿論我が家でプレイしているのはXBOX360版の方である。

このゲームは眩暈がする程用意されたパーツや武器を組み合わせて自分好みのロボットを作り、それを操作してミッションをこなしていくアクションゲームだが、複雑な操縦や膨大なパラメーターにあえなく挫折してしまう人間も多かろう。自分もPS2の時代に、一度このシリーズに手を出したが途中で投げ出した口である。アクションゲームを主食としていた自分がどうにもならずについに音を上げたという、嫌な思い出のあるシリーズタイトルだ。にも関わらずこの作品の購入に踏み切ったのは「女の子(メイ・グリーンフィールド)と一緒に戦える」という点が絶大な訴求力を持っていたからだが、それは今となっては些細な事なので放っておく。

詰まる度にメールで井上さんに泣き付き、ヒィヒィ言いながらなんとかストーリーモードを終わらせ、恐る恐る飛び込んだオンライン対戦はまさしく地獄だった。ミサイルの雨が降り注ぎ、何も出来ないまま撃破される毎日。このシリーズを通してプレイして来た人間達と新参者の間の格差は尋常ではなく、容赦なくレーダーを埋めつくすミサイルの表示に憂鬱になりながら叩きのめされていたのである。この時初心者達から上がった怨嗟の声は凄まじく、ロビーには「ミサイル禁止」の部屋が常に立つ有様だった。撃ったら放っておいても相手を追いかけて行き、酷いのになると避けても後ろから引き返して来るような武器に対して、皆苛立ち、侮蔑の声を浴びせていたのである。かく言う俺自身も「ミサイルは使わない」というテーマでロボットを作り続けていた。色々理屈を付けていたが要は「気に入らん」という事だったのだろう。自分が被弾するもんだから、それを憎んで敬遠していたのである。

しかしそれじゃあいつまで経っても埒が明かないので、真正面からミサイルに向き合ってみよう、と一念発起してCPUの機体が弾切れになるまで避け続ける練習を連日繰り返した。自分の機体にも各種ミサイルをとっかえひっかえ取り付けてはそれをCPU機に撃って、相手がどうやって避けるのか懸命に研究した。その頃オンライン対戦では俺が密かに「師匠」と呼んでいる人達に出会い、1 on 1の部屋に出向いてはボコボコにされて帰ってきて、翌日もまた部屋があれば出掛けていってタコ殴りにされて帰ってくるという事を繰り返した。この「師匠」達は3〜4人いるのだが、いつも懲りずにやってくる初心者に嫌な顔一つせず、気の済むまで戦ってくれる凄腕の方々である。この頃にはこちらの腕が少し上がっていたので、相手の強さが若干値踏み出来る様になっていたのだが、その強さもさる事ながら、感嘆したのは紳士的な戦い方である。師匠達の機体や戦法はどれも正攻法で、やられればやられる程気持ちいい位である。こんなに上手い人がいるのか、こんなに上手くなる事も可能なのか、と思える事は幸福な事だ。

しかしそれとはまったく逆のプレイヤーも数多くいる。このゲームには「ちょっと待て、なんだそれ」と言いたくなる様な武器が幾つかあって、相応のリスクが有る物ならまだしも、ゲームの欠陥に付け込んでるだけなんじゃねぇのか、と言いたくなる様な物も存在する。以前からあった「コジマミサイルの加速撃ち」に加えて、現行のレギュレーション(1.20)になってからはブレードホーミングや追加ブースターによるラグなど、目を覆いたくなるような奇矯な機体も出没するようになった。そういうビックリロボは初心者には対処のしようも無く、何が起きたのかも分からないまま開始数秒で沈む事も多々あるのだが、その時そこにあるのはどうにも納得の行かないやるせなさである。武器の射し合い避け合いを放棄し、プログラム処理の欠陥やサーバーの負荷に頼った騙し討ちに身を投じた者は多く、またそれを喰らって負けた自分に心底腹が立つ。勿論避けられなかった俺が悪い。それは全く間違いがないのだが、このゲームを始めたばかりの人がこんな目に合わされて、どんな気持ちになっているかを想像するのも辛い。また、機体や戦法だけならまだしも、品性でがっくりする事も多い。日本人の中にも若干いるが、北米版が発売されて大量のアメリカ人が参入して来た事で、倒した相手を試合が終わった後も執拗に攻撃を続ける輩が一気に増えた。「ヒャッハー、どうだ参ったかこの野郎ー」とでも叫んでいるのだろう。正直まともな対戦をする機会は非常に稀である。実力伯仲、互いの攻撃を避け合い、当て合いするような好ゲームをした後は思わずフレンド登録の依頼が舞い込む位である。

そんな風な有様なので対戦成績が順位付けされるランクマッチでは卑怯な戦いや品性のないプレイヤーと当たる事が多く、最近師匠たちもあまり部屋を立ててくれなくなったので(皆ランカーになったので忙しいのだろう)鬱々と、しかしそこそこの勝率を出せるようになって来た頃の事である。プレイヤーマッチ(成績が順位付けされるランクマッチと違い、こちらは自由に戦える)で何気なく入った1 on 1の部屋でとんでもない相手に出会ってしまった。当時の俺はまだまだミサイルは怖いけど正面から撃って来るような相手ならレールガンとマシンガンで蜂の巣にしちゃうぞ、という位の腕前だったのだがいや、驚いた。何処を探しても相手がいないのである。ミサイルが延々降り続いてくるのだが、そっちを向く頃にはもういない。正面から交差して自分の「下」をくぐって行った相手を補足しようと振り返ると、何故か振り向いた俺の「後ろ」の「上」にいる。何がなんだか分からなくてなす術も無くやられてしまい、戦闘が終わった後思わずマイクを差し込んで「すいません、もう一回やってもいいですか」と聞いてしまった。相手もマイクを差し込んで、若い、しかし落ち着いた声で「はい、いいですよ」と快諾してくれた。

そこから先は喜劇のような時間である。背中にミサイル二つ積んでておまけに分裂連動まで積んでいる機体なので、冗談染みたスピードが出せる訳ではない筈なのに、まったくもって相手を見つけられない。一度視界から見失った後はこちらが沈むまでに2、3回ご尊顔を拝見出来るか出来ないか、という有様である。これまで観た事も無い、師匠達より遙かに圧倒的な力の差に、もう笑うしかない位であった。結局「もう一度」では済まず、色々話をしながら完膚なきまで倒された。その後も日を改めて何度も相手をして貰う内に向こうからフレンド登録依頼が来たりした後、ある日プライベートマッチに招待されたのである。本文の内容は「3人でタイマンしませんか」という物だった。喜び勇んで出向くともう一人知らない人が入っていて、1人は試合開始と同時にエリアオーバー(要するにリングアウト。当然その時点で負けなのだが、このゲームは負けた後、残って戦っているプレイヤーの映像を、そのプレイヤーが見ている画面を通して見る事が出来る。つまり他の人の戦い方が見られるという訳である。)して残った2人で勝負するという。名前は知らないがこのもう1人の人も恐らく強い人だろうから、これはどう考えても俺の為にしてくれているのだ。俺のプレイを「師匠オブ師匠」(この時点で我が家では彼の事をこう呼称していた)や、この見知らぬ人が観ても参考になる事はないのだから、これは俺が二人の戦いを見られるように、そして二人が俺のプレイを見てアドバイス出来る様に、という事で招かれたんだな、と思うと身が引き締まった。なんて有り難いんだろう。

始まってみれば予定通り師匠オブ師匠には手も足も出ず、もう1人の人にもコテンパンにされた。そしていよいよ本番の師匠オブ師匠とその人の対戦である。開始直後にオーバードブーストでリングアウトした俺は、ボタン一つでどちらのプレイ画面も切り替えて見る事が出来る。そこで繰り広げられた光景は、なんと言ったらいいのか、とても美しいものだった。向かってくるミサイルも後ろから飛んで来るミサイルも華麗に避け、見失った敵をすぐに捕捉し直し、また攻撃するけどそれも避けられ、今度はこちらが攻撃され、クルクルと躍るように撃ち合い避け合い、それでも決定的に優位に戦いを進める師匠オブ師匠は、相手に完勝してしまった。「ミサイルには絶対当たらない」という前提で二人は戦っていて、その前提は普通にしていれば守られてしまうのだが、その前提を覆す技術で当たらない筈のミサイルを当てて勝っているのである。後で調べたらこの時の相手はランカーの1人だったが、俺が師匠オブ師匠に頼んで俺の機体で戦ってもらった一戦を除いて、全て敗北した。

色々相談したり秘技(?)を披露してもらったりしながら、何度も何度も戦ったが、その度に心底申し訳なくなった。この人達はこの人達同士でしかこのゲームを楽しめないのである。全弾避けられる事が前提のミサイルに勝手に俺達が当たって勝手に沈んでいく有様では、まったくフェアなゲームではない。巷で「またミサイルカーニバルか」と揶揄される風潮が今も残っていて、そしてそれはまさしく昔俺が口にしていた言葉でもあるのだが、ミサイルカーニバルをアンフェアにしているのは俺達なのである。少なくとも師匠オブ師匠と俺が戦っている時に、彼からスリルという娯楽を奪っているのは他の誰でもない、俺なのだから。

その後もまた別の相手との三人交代タイマンに呼んで貰ったり、別の理由で買ったコントローラーを使って分割画面でミサイル避けの特訓をしたりしながら、もうちょっと強くなるまではと適当にこなしていたランクマッチも積極的にこなしてBランクに昇格した今日、また師匠オブ師匠が部屋を立てていたのでお邪魔した。色々相談したい事があったのが、とりあえずいつもの様にまずは一戦。必死でミサイルを避け、フレアを撒き、相手を探してマシンガンとレールガンを打ち続けて、気がつくと俺と師匠オブ師匠のAP(ライフ)は同じ位減っている。お互いに1000を割り800、600と削られていく、師匠オブ師匠のライフルなら1発分、俺のマシンガンなら0,5秒ほど相手に当たれば沈む位の本当にギリギリの所で、最後の一瞬だけ俺が真上を取って、師匠オブ師匠のAPは0になった。こっちの残りは390位だっただろうか。「これは!?……マグレ?」と思わず聞いた俺に、師匠オブ師匠が「いやぁ、困りましたねぇ」と答えたのを聞いて「やったーーーーーーぁあぁあああ」と年甲斐も無く叫んでしまった。隣では妻と娘が喝采と共に祝福してくれている。この先100回やっても100回負けるのかも知れないけれど、たった一度でもご恩が返せて良かった、スリルを味わってもらえて良かったと、心の底からホッとしたのである。

しかし深夜ランクマッチに出向いてみれば、先の一戦で運を使い果たしたのか連敗連敗、また連敗である。一時マイナスまでポイントが下がったがそこから少し持ち直し、なんとか今日始める前のポイントまで戻せそうかな、と思った時、対戦相手の名前を見て驚いた。ニコニコ動画でもおなじみの名うてのランカーであり、師匠オブ師匠をして「自分と同じように技術的に頭打ち(つまり上手くなるだけ上手くなってしまって、これ以上の向上の余地がちょっと見つけられない)」と言わしめた人だった。対戦するのは初めてである。背中に武器を積まず両手のライフルだけで戦うスタイルである事。アサルトアーマーは積んでいない事を、こちらは戦う前から知っているが、その両手ライフル機というのはとても苦手な相手で、これまでもランクマッチで度々苦渋を舐めさせられてきた。勝ち目の見えない相手だがいつかは戦ってみたいと思っていた有名人だし、師匠オブ師匠の知己の友人という事を聞いていたので心は躍る。ランダムに選ばれたステージは「PARABOLIC GROVE」。お互いの武装を考えても真っ向勝負しか出来ないMAPである。

いや、速かった。噂には聞いていたが、本当に速い。何度も見失いながら必死に追いすがって、マシンガンとレールガンをひたすら撃った。気が付けば向こうのAPがこちらの半分くらいになっていた。ホンの僅かの間だったけど相手の横を取れた事と、二度くらい当たったレールガンのダメージが、差となって表れていた。超長距離用のレールガンと接近戦用のマシンガンを同時に撃ってくる機体に面食らったのかも知れないが、相手がアサルトアーマーを積んでいないと分かっている以上、落ち着いて撃ち合えばこのダメージ差はひっくり返らない。肩のフレアを外す余裕も、右背中に積んだミサイルを使う余裕も無かったけれど、相手のAPを横目で見つつ、最後154位にまで削った所を確認した後、相手のAPが0になり、動かなくなった。

こんな事もあるのか、と、画面に表示された「WIN」の文字を見ながら放心した。いい勝負だったと思う。ビックリドッキリメカじゃない、当たり前の武器と当たり前の機体で、お互いトリガーを引きっ放しの状態で何分間もグルグル回り続けた。今日2回目の神風が吹いただけで、やっぱりこの人にもこの先一生勝てないのかも知れないけど、それでも今日の試合を向こうもいい試合だったと思って貰えるんじゃないだろうか。少なくとも、スリルを味わって貰えたんじゃないだろうか。

沢山ゲームのレビューめいた物を書いてきたけれど、このゲームに関してはこんなに長くプレイしているのにどうしても今まで書けなかった。それは俺がこのシリーズの新参者で、まだこのゲームを語るのは許されないんではないかと思っていたからである。実際まだ上に100人いるのでやっぱり時期尚早な気がしなくもないのだが、こんな日は二度と来ないかもしれないので書いてしまおう。人間に心底幻滅するような仕打ちを受けた事も多いし、眉を顰めたくなるような奇行も目にする。このゲームのオンライン対戦で嫌な気分になった事は数え上げればキリが無い。けれどもそれと同じように親切にされた事や楽しい時間を共有出来た事も数多い。ゲームを楽しくするのも嫌な物にするのもプレイヤー次第である。だから俺はもっともっと強くなりたいと思う。今俺があんな戦法やこんな戦法を理不尽なものだと感じているのは、初心者がミサイル攻撃に対して理不尽だと感じているのと全く同じである。どんなラグアセンだろうが、加速コジマだろうが全てねじ伏せて、彼らにもキッチリスリルを味わって貰えるようになりたいと思う。自分より上の順位が全て尊敬できるプレイヤーで占められている位置まで行く事が出来た時に初めて、このゲームを心から楽しいと感じられるようになる気がする。