これまで信じていた物が実は間違っていたという事を教えられる瞬間というのは、軽いショックも伴うが総じて刺激的な物である。信じていた期間が長ければ長い程、それが裏切られた時の快感も増す。「そうだったのか!」という知的好奇心を満足させる興奮はなかなか他では味わえない甘露だが、今日報じられたニュースは久しぶりに脳味噌を揺さぶられる程の破壊力を伴っていた。「救急蘇生術:人工呼吸は不要 心臓マッサージに効果あり」という記事である。
この世に生まれた時から心肺蘇生術(CardioPulmonary Resuscitation; CPRと言うそうな)は「人工呼吸と心臓マッサージを交互に行え」と教えられて来たのだが、この度「日本救急医学会関東地方会の研究班」の調査で救急隊到着時に完全に呼吸が停止していた人に限った分析では、回復率は心臓マッサージだけの患者が6%だったのに対し、(人工呼吸と心臓マッサージの)両方受けた患者は3%で、心臓マッサージだけの患者の方が回復率が高いとの結果が出たそうである。念の為にもう一度分かりやすく書くが
- 心臓マッサージだけを受けた患者の回復率
- 6%
- 心臓マッサージと人工呼吸を受けた患者の回復率
- 3%
である。人工呼吸をしない方が回復する可能性は高いという事が報告されたのだ。どちらにしろとても小さな可能性ではあるが、それでも倍の差が付いているのである。これは一体どういう事なのだろう。もしこれが本当なら、これまで教えられてきた事はベターではあるがベストでは無かったと言う事になる。
この原因については「呼吸が止まっても12分程度は血液中の酸素濃度がそれほど下がらないことや、心臓マッサージの際の胸の動きで、空気が肺に送り込まれることなどが考えられる」
という解説が為されている。人工呼吸をやっている暇があったら心臓マッサージを続けろという事だ。なぜ今の今までこんな簡単な調査が為されなかったのか不思議でしょうがないが、それだけこの常識が”磐石”だったという事なのだろうか。
しかし今現在このニュースを取り扱っているのは毎日新聞だけである。まだ一回目の報告で即”人工呼吸は不要”と結論付けるのは難しいだろうから、関係医療機関は早急にこの件に関しての真偽を検討し、結果を発表して欲しい。医療関係者や救急関係者はどうなのか分からないが、殆どの一般人は救急蘇生は人工呼吸と心臓マッサージと信じている筈である。今の段階では”もしかしたら人工呼吸は(心臓マッサージと同時に行えないので)救急蘇生を阻害しているのかも知れない”と心の隅に留めて置く程度にしておいて、今後の成り行きに注目したい。