unlimited blue text archive

政治家を綯う物

作成年月日
2007年07月30日 10:45

政治家を選ぶ選挙というのは人によって色々な捉え方があるだろうが、個人的には物凄い二律背反を内包する行為なので選挙権を獲得して以来一度も、本当にただの一度もその権利を行使した事がない。ここで言う二律背反とは、政治家の人選が世界を幸せにする為にどれだけ影響するか、という事に関係した話である。

例えばまずはこう考える。投票で選ばれる人間は最終的には民意の奴隷であり、政治の良否は政治家の良し悪しではなく国民が何を望むかに帰結していくので、誰を選ぶかは問題にならない。政治家として仕事を続けて行こうと思えば国民の人気を得なくてはいけないのだから、誰がなっても国民の望む事しか出来ないのである。そして「大勢が望む事=良い事」とは限らない。国民が「他の国なんてどうでもいいから自分達の事だけ考えよう」と願えば政治家はその期待に応えようとするだろう。そうしなければ人気が得られない。国民に品の無い人間が多ければ政治も品の無い物にしかならないし、品のある人間が多ければどんな馬鹿を選んでも品のある行為しか出来ないのだ。問題は選ばれる側ではなく、選ぶ側にある。ならば誰が政治家になろうが構わないのではないか。

逆にもし政治家の人選が重要だとすれば、今度はそれが故に投票が躊躇われてしまう。その候補者なり政党が裏で何をやっているのか、この先何をしでかすのか俺には分からない。口ではいくらでも奇麗事を言えるが人の言う事を鵜呑みにしてそれを元に判断するなんて事は現実世界ではまぁ軽々しくは行わないではないか。俺が誰かに、どこかに投票したとして、その相手がいずれ何かの不手際を起こした時、あるいは良い結果を残さなかった時に責任が取れない。ここでも問題になるのは「大勢が望む事=良い事」とは限らないという原理である。本当に政治家に精通していて、裏の情報も把握している人間から見れば、その情報を持たない人間の一票などは邪魔で邪魔でしょうがないであろう。「なんでそっちに入れるんだよ、そいつが裏で何してるのか知らないんだろう。分からん奴がしゃしゃり出て来るな」と思っているのではないか。(実際は裏の情報を知っていてそれを秘匿していると言う事は、その人間もその旨味を生かす為に振舞っている筈なのでそんな風には思わないのだろうが)

余談になるが、同様の理由で俺は陪審員制度にも大反対である。誤審した時のペナルティも何も無い状態で素人が審判に参加するなぞ言語道断であって、そんな裁判に自分の運命を委ねる事になったらと思うとぞっとする。それが許されるなら医師免許も運転免許も必要ない。何かを行うのはその事に精通した者が行うべきである。命に関わる手術を医者でもない、ましてや医大生でもないような人間に頼む奴はいないだろうし、その事を法律は厳に禁じている。

話がちょっと逸れたが、結局どちらに転んでも、俺には投票する動機か資格が無いのである。実際はほぼ前者の心情であり、つまり動機の問題であった。投票しないというのは政治に対する信頼とあきらめであり、他の手段を選択し続ける為の儀式の様な物だったのだが、実は今回はここからが本題である。今回は我慢できずに投票して来てしまったのだ。

じゃあここまでの文章はなんだったんだという感じだが、ここに到るまでの前提を覆されかねない状態だったので、無理矢理投票したのである。参議院っていうのが何なのかよく分かってないのに、ただ「自民党以外」に票を投ずる為に出かけてきたのだ。先に述べた信頼とあきらめにより俺自身の政治に対する採点は非常に甘く、安倍政権もいつも通り、俺の期待には応えないが、致命的に重篤な人権侵害(外国で間接的に関与しているが)を奨励するような国家運営ではないという点で、「最低限やることやってれば良し」という感じであった。しかし例の「赤城農水大臣」の一件が引き金となった。本人の問題と言うより、それを庇う(追求しない)安倍首相の姿勢の問題と言える。別に隠れて事務所費を捏造して小金を稼いでいたとしてもそれは別に構わないのだが、その疑惑が出た時の態度が本人、党内(一部除く)共に「おい、お前ら人気商売という事を忘れとりゃせんか?」という物言いだったのである。

絆創膏の時も、もしこれがレストランのウェイターだったら即クビという憮然とした物言いだった。通常なら店長が出て来て「申し訳ありませんでしたっ」と平謝りする局面だろう。選挙を目前にして自党の失点を隠したい気持ちは分かるが、そういう時だからこそ事務所費問題も全力で否定するなり、平謝りするなりするべきだったのではないか。「ちゃんと説明してるようですし」なんて、責任者の発言ではない。人気を得る為に最大多数のご機嫌を取らざるを得ず、だからこそ俺の望みとは違うまでも最低に酷い事にはならないだろうという事で大目に見て来れたし、どうなっても文句は言うまいと思ってきたのだが、人気を取る気が無いのであれば全力でオミットするしかない。そこだけが、政治家を規制する唯一のファクターだと思っているからだ。

赤城農水大臣の一件も田舎の一市民には知る由もない、大変な真実が隠されていたのかも知れない。家族を人質に取られ『「たいしたことはない」としか話してはいけない』と脅されていたのかも知れない。そう考えると、真実を確実に知らない俺には、やはり投票所に行く資格は無かったのかも知れないのだが、今回はそのリスクよりも、人気商売である事を忘れられてしまうリスクを回避する方を選んだ。今後こんな事がまた起こらない限り、動機と資格を持ち合わせない俺が投票所に足を運ぶ事はもう無いと思うので、どうか政治家の皆様には自分がサービス業に従事しているという事を忘れないで欲しいと思う次第である。