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白髪化

作成年月日
2007年03月24日 00:20

小学生の頃にはもう、自分の未来がどういう姿になるのかが分かっていた。何の仕事をしているのか、結婚しているのか、子供はいるのか。そういう事柄はまるで予測がつかず、それは今になってもまだ2〜3年先に何をしているのか分からない位不確定なのだが、一つだけはっきりしていたのは「自分は割と早い時期に総白髪になるんだな」という事だ。

男子として生まれたからには歳を取った時に辿る道は2つである。抜けるか、白くなるかだ。しかしウチは父親を始め、その兄弟姉妹、さらに祖母に到るまで絵に描いたような白髪族だった。もちろん俺が子供の頃は父親の髪は黒かったのだが、毎年父方の実家に遊びに行く度にそこに集う親戚達の頭がどんどん白くなっていくのと、その過程を数年ずらして父親の頭髪が正確にトレースしていく様を見て「あ、つまり俺もこうなるんだな」と納得していた。母方の遺伝情報も考慮しなければいけないのだが、そっちの親戚とは殆ど付き合いが無かったのと、ただの一人も例外を出さない父方の遺伝情報の徹底ぶりに圧されて他の選択肢は俎上に上らなかったのである。

見てくれを気にする必要の無い仕事をしているので抜けようが白くなろうが構わないのだが、これまでそんな兆候は少しも無かったのに最近まるで時限式のスイッチが入ったかの様に(実際は”スイッチが切れた”と考えるべきなのかな?)白髪化が始まった。しかも頭髪からではなく最初に白い物が混じり始めたのは鼻の毛だったのである。

これには少しばかり驚いた。ここも白くなるのか。言われてみればそうでないとバランスが悪いような気もするが、人の鼻の中なんてまじまじと見たりしないので白髪の人が皆そうなるのかどうかはちょっと分からない。とにかくここを皮切りに頭髪にも白い物が混じり始めたのである。先にも書いたように白髪になるのは別に構わないんだがちょっとその、見てくれが内面にそぐわなくなるのが困る。まだまだやりたい事や覚えたい事は山ほどあるし、ふらふらと気の向くままに仕事を変える俺はとても総白髪に値する人間ではないのだ。そういうのはある程度の実績を残して、そろそろ隠居生活を始めようかな、という人間にこそ相応しい風貌だろう。そんな見てくれなのに”夜な夜なベッドの上でエレキギターの練習”とか普通に考えたら詐欺な気がする。

この歳になってもお気楽な生活をしている俺が悪いんだが、それでもこう、自分の体なんだからもうちょっと空気を読んでくれよ、という気分になる。せめてもう少しギターが上手くなって「ええ、若い頃からずっと弾いてましてね」みたいな雰囲気が出せるようになるまでは堪えて欲しかった。