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偽りの平均律

作成年月日
2006年09月19日 23:03

画像は今日思いつきで作った全調のスケール表。左の文字は長調の基音、右の文字はその平行調である短調の基音。ピアノやエレクトーンなどで御馴染みのこの白鍵と黒鍵のコンビネーションは視覚的に十二平均律を理解しやすいというメリットがあるものの、それはC長調(及び平行調であるa短調)に限るというデメリットがある。

C長調、a短調においては白鍵がスケールの構成音(俗に言うドレミファソラシド)で黒鍵は非構成音という、誠に分かりやすい色分け、形分けがされているのに、調が変わった途端その機能は失われ、構成音に白鍵と黒鍵が混在しコードの押さえ方もガラっと変わってしまう。厳密に言うと各音程の間隔は常に変わらないのだが、見た目が変わってしまうのだ。

小さい頃からピアノやエレクトーンを習っていた人間はともかく、そうでない人間は「あの黒い鍵盤は何に使うんだろう」といぶかしんだ記憶があるのでは無いだろうか。白鍵と黒鍵が本質的に等価の物で、あれは単に恣意的に並べているだけであって優劣がある訳では無い、という事を俺が知ったのは随分年をとってからだったような気がする。

鍵盤楽器で全調を弾きこなすという事は、この恣意性との戦いであるとも言える。小さい頃からピアノを習っている人間は恐らく全ての調を等価に捉えているだろうが、俺のような人間からすればC長調は居心地の良い我が家、或いは港であり、B長調やG♭長調は荒波さかまく外海の様に感じる。C長調が他の調に較べて優れている、なんていう事は微塵も無いのに、単に鍵盤の配列がそれに沿って作られているので、そう感じてしまうのだ。平均律といいつつも、鍵盤楽器においては(訓練が足りていない人間にとって)12調は決して「平均」ではない。それじゃあいかん。#や♭の数が少ないとホッとする、なんていう有様ではダメなので、全調のスケールを体に覚えさせるべく日々キーボードを叩いているのだが、やっぱりなかなか難しい。

多分この段階を越えた暁には調が変わる毎に白黒の鍵盤の上に「光る音階」の様な物が見えてくるのでは無いかと思っている。脳内補正が働いて構成音は薄らぼんやりと明るく、非構成音は暗く見えて来るのだと思うが、それを一足先に視覚化したのがこのスケール表という訳である。

以前書いた「大人の塗り絵(憂鬱と官能を教えた学校 第3段)」において、「(他の芸術要素に較べて体系だてられているので)音楽を学ぶ事は容易い」と書いたが、学ぶ事は容易くても、身につける為には結局反復練習するしか方法が無いというのは、分かってはいた事だが最近身に染みている事のひとつである。

白鍵と黒鍵という2段構成をやめて全ての音を白鍵にして横一列に並べればどの調になっても指の動かし方、押さえ方は一緒になるが、そうなるとセブンスを片手で抑えるのはほぼ絶望的になるだろうし、全部同じ色で同じ並びではどこが「C」なのかも分からなくなってしまう。並び方は今のままで、調をセットするとこの表の様に構成音は白く、非構成音は黒くなるような鍵盤をどこか試しに作ってくれないかなぁ。