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雪空のともだち

作成年月日
2006年08月23日 01:25

「ふたりはプリキュア マックスハート2 雪空のともだち」を視聴。いやぁ、子供向けアニメは時々こういう拾い物があるからやめられん。出だしからいきなり的確なコンテとレイアウトに唸ったが、シナリオも構成も上出来だった。たかだか70分程度の尺でありながらアクションシーンをふんだんに取り入れつつ驚異的な変数度の高さで物語がドライブしている。監督は志水淳児。知らんなぁ。

とにかくカット割りがいちいち正しい上に、主人公のほのかとなぎさのパワーバランスが一時も停滞せずに変化しつつ作品のテーマの着地点にすっきりと収まる構成の妙に感心した。「ささいな事で喧嘩」→「仲直りしたいけど邪魔が入って先延ばし」→「困難を乗り越え仲直り」という、無印8話でも描かれたモチーフの焼き直しではあるのだが、途中途中の展開が常に予想の一つ上を行くので新鮮。

ネタバレ御免で詳細を書くと途中ほのかが敵の催眠術の様なものに嵌まってなぎさを襲い始める。今まで散々見たような話。なぎさの方は手が出せないのも定石。たいていは泣いてすがって、操られている方がそれに心を打たれて意識を取り戻すという、もうこれが始まった瞬間そこまで読めてしまう展開だが、このプリキュアは違った。

この後なぎさの方も操られてしまうのだ。

もしかしたら過去にこういう展開を辿った作品があったのかも知れないが、正直意表を突かれてしまった。お互い操られてしまった正義の味方がガチンコで殴り合い蹴りあい、いつの間にか習得したサブミッションで極め合うのだ。しかも「これ本当に女の子向けアニメなのか」と目を疑うような凝ったサブミッションで。

結局お互い意識を取り戻すのだが、この操られている間の描写が「自分が今何をやっているのか分かっているんだけど、その事に何の感情も湧かない」というリアルな催眠状態を上手く描写していて、しかもその間、感情の萌芽が出たり引っ込んだりと言う仕草を自然にカットの中に折り込んでいるので、正常な状態に戻る瞬間もご都合主義的な感じがしない。

そして最後のバトルで劇場版らしく今回限りの特別コスチューム、スペシャルパワーアップを手に入れて敵を圧倒するのだが、ここでも一つ感心する事があった。この最終バトルの一つ手前まででズタボロになっていたなぎさとほのかが新しい力を手に入れて、形勢を逆転するカタルシス溢れる場面だが、その力で敵を倒したりはしないのだな。

今回の敵は仲違いしたなぎさとほのかに対比させる為に、息の合った2人組という設定をされている。ここまでは仲直りしても敵わなかった位に強い敵に対し、パワーアップした後は負ける要素が見当たらないくらいに優勢に立てたにも関わらず、さらにここでこの敵に「仲違い」をさせるのだ。

ほのかと喧嘩した事を後悔するなぎさに対して級友が「友達には本物のともだちと偽者のともだちが居る」という話をしていたのがここに収束するのだが、つまりこの作品のテーマが「本当のともだちの価値」である以上、ただパワーアップして敵をやっつける訳にはいかないのだな。このままやっても勝てたんだろうけど、それでは物語の円環が閉じない。

「なぎさとほのかはほんとうのともだちで、敵の方はそうじゃなかった。だから勝てた」

そこに落とす為に圧倒的に優勢な所でさらに相手に仲違いをさせて、正しい着地点に話を収める。当たり前の作業なんだけどそれがおざなりになってて「そんな話だったかオイ」と突っ込みたくなる話が氾濫する昨今、とても貴重なシークエンスを見た気がした。

この作品特有の説教臭さというか、中学生の女の子がいきなりとんでもなく大上段に構えた演説を始める辺りはこの劇場版でも健在で、その辺は個人的には勘弁してくれと思う所なのだが、引き締まった構成と工夫に富んだカット割りで大変楽しめた。

余談だが、映像特典の予告編も秀逸だった。予告編を構成するカットの殆どが観た事もないようなカットで、「こんなシーン知らねぇ!」と突っ込みまくってしまった。シナリオが確定する前に予告編を作らなくてはならなくなって、適当にシーンをでっちあげて描いたのか。それとも作る途中で泣く泣くカットした場面なのか。予告を観てから本編を観た子供たちは何か腑に落ちないものを感じながら劇場を後にする事になったかも知れない。

あらゆる意味で隙の無い傑作だった。