我が家にはリビングにあたる部屋が無い。それぞれが勝手に暮らせるように夫婦別々の部屋で寝起きし、好きなテレビを観ている。しかし番組の予約録画は俺の仕事なので、HDDレコーダ・スカパーチューナー・PS2等のAV機器は全てこちらの部屋にある。そこからセレクターを通して隣の部屋まで線を延ばして女房のテレビに映像と音声を出力しているわけだ。よって、女房子供の「アレが観たい」というリクエストにはこちらがリモコンで応える事になる。
今日も今日とて先日入手した「AIR」を流していると、娘が「これ『えあ』?」と怪訝な顔で聞いてきた。観てみると「SUMMER編」に突入した所である。作中の舞台が変わった為にそれまで出ていた登場人物が姿を消してしまい、知らない人ばかりが出てくるので不思議に思ったのだろう。
「うん。コレも『AIR』だよ」と言うと納得したのかしないのか、またおとなしく画面を観始めた。その後俺は自室に戻って仕事をしていたのだが、だいぶ経ってから娘がこっちの部屋に「おとうさん、なおしてくれてありがとう」と、ニコニコしながらお礼を言いに来た。
「いえ、どういたしまして……で、何が直ってありがとうだって?」
「『えあー』」
「『AIR』?」
こちらのモニタで確認すると「SUMMER編」(30分×2)が終わり、また元の登場人物たちが画面に登場している。知らない「AIR」が始まっちゃったけど、また元の「AIR」に戻ったので嬉しい。おとうさん、元に戻してくれてありがとう、と言いたいようだ。観たい番組を選んで再生するのはこっちの部屋でしか出来ないので、俺がリモコンで「知ってる『AIR』」の再生を始めたと思ったらしい。
「……良かったね」
「うん」
「じゃあ、観ておいで」
「はーい」
とんちきな会話を後に彼女は隣の部屋に戻り、登場人物と一緒に「ラーメンセット!」と叫びながら母親と一緒に「AIR」を観ている。彼女があと10年くらいして「AIR」の物語をちゃんと理解出来るようになった時にどんな感想を抱くかとても楽しみなのだが、今日のこの日も、これはこれで得難い一日であった。