世の中には歯磨きが苦手な人がいる。歯を磨くのが下手というわけではなく、ついついサボってしまう人のことだ。毎日毎食後3分間、歯と歯の間に詰まった歯垢もしっかり掻き出しましょう、と言われてもそんな面倒くさい事やっとられんぞ、という人。何を隠そう自分の事だ。
毎日歯を磨く習慣は自堕落な一人暮らしと共に瓦解し、以来18年間、少しサボっては時々執り付かれた様に磨きまくるというローテーションを繰り返してきた。そして当然というか、頻繁に虫歯にかかっては限界まで我慢して、どうにもならなくなった辺りで歯医者に行ってスッキリしてくるのを2〜3年周期で繰り返していた。
今もかなり進行した虫歯を上下に抱え、これはどうにかしなくてはな、と思っていた所に、これまでどうしても習慣付けられなかった歯磨きのいいやり方がもたらされる事になった。
「1日1回いつでもいいから、20分磨く。その際歯磨き粉は別につけなくても良い。」
ネットで見かけたこのやり方だと、寝る前とか食後等シビアなタイミングを要求されなくても済む。仕事でヘロヘロになってやっと布団に潜れるという時に、軋む体に鞭打って洗面所に向かうのは大変である。そこで負けてしまうと、その「負けの記憶」が次からの意欲を削いでしまう。いつ磨いてもいい、という一点が気を楽にしてくれる為、かえって真面目にやろうという気にすらなる。
さらに歯磨き粉をつけずに少し濡らした歯ブラシで磨くと、洗面所にいる必要が無い。泡が立たないので部屋で磨けるのである。我が家では夜寝る時、みんなで布団の上に寝っ転がってテレビを観ながら歯を磨くのが恒例になった。30分のアニメを観終わる頃には、歯ブラシでこするとキュキュッと音がするくらいに磨き上げられている。歯磨き粉ではこんな長時間は磨いていられない。
歯ブラシでは歯間掃除に限界が有るので、定期的にフロスを使うなどして補わなくてはならないが、それは歯磨き粉をつけて洗面所で磨く場合も変わらない。結局歯磨きが苦手な人間は「歯を磨く以外なんの作業も出来ない退屈さ」を嫌っていたのだと思い知らされた。