「色」についてはいい思い出が殆ど無い。絵を描く事で細々と食いつないできた自分だが、生まれつきの色弱のせいなのか(普通色弱は生まれつきだが)子供の頃から「色塗り」というのが酷く苦痛だった。いや、物心つく前は何も気にせずサイケな色を塗りまくっていたのだろうが、保育園の通信簿にも「あまり色塗りは得意ではないようです」みたいな事を書かれていたらしい。(物によって色を使い分けるという事が出来ず、何でも黄色で塗ったりしていたようだ)
まぁ、単にセンスが悪かっただけかもしれないが、やがて色のついた世界は自分にとって苦手な領域だと自覚し始め、小学校の図工の時間には、下書きまでは上手くいったのに、いざ絵の具を置き始めたら目も当てられない代物になっていき、だんだんやる気が無くなって、とりあえず白い部分が無くなったら提出するということを繰り返していた。
幸い日本の漫画は白黒印刷が基本なので、学校を卒業してしまえば「色」に頭を悩ませる事は殆どなくなった。白黒2値で表現される世界はとても居心地がよく、65ラインのグラデーショントーンに空の青さを見つけては、ひとり悦に入ったりしていた。
が、最近とある縁でカラーの仕事を請け負ってしまった。今まで白黒という限定された条件の中でしかスキルを身に付けて来なかった自分にとっては、無謀な挑戦とも言える。これかな?と思って塗った色はイメージしたものとは程遠く、子供の頃と同じように、塗っては頭を抱え、消しては途方に暮れることの繰り返しだ。それでも、子供の頃とは違う事も有る。ひとつは途中で投げるわけには行かない事。もう一つはデジタルで塗れるという事である。
画用紙に水彩やポスターカラーでは、リトライ出来る回数に限界があったが、photoshopならいくら塗り直しても画用紙が破れたりはしない。そうして何度もレイヤーをゴミ箱に入れてはまた塗り始めるという作業を繰り返していると、少し見えてくる物もある。
「あぁ、この色とこの色の組み合わせが俺は好きなのか」とか「灰色ってこんなにカラフルな物だったのか」とか、それは初心者以上の人にとっては失笑ものの発見かもしれないが、自分にとっては子供の頃には指先すら届かなかった扉が、少しずつ開いてくるゾクゾクするような一大事だった。
今もまだトライ&エラーの繰り返しだが、この歳になって「まだ上手くなれるかも知れない」と感じられる事がとても刺激的だ。