アンゴラvsメキシコ。初戦でアーティスティックな攻撃で勝ち点3を得たメキシコに対して、未だ勝ち点、得点共に0のアンゴラ。個人的に贔屓にしているとは言え、メキシコ相手に勝てと願うのは余りに酷だと考えていた。
今回のワールドカップを見ていて思うのは、やはり強豪と呼ばれるチームにはそう呼ばれるだけの訳があるという事だ。更に今回、1トップでゴール前に張ってクロスを待つスタイルのチームはことごとく黒星を喫している。初戦のポルトガルとの戦い、0-1というスコアはもちろん称えられて然るべきだが、そこに得点の予感は無かった。
相手チームにしてみれば1トップのアクワさえ抑えておけば、他に怖い攻撃は殆ど無いのである。自陣近くでミスさえしなければ、精度を欠いたミドルやクロスを跳ね返すのは容易い。負けてもいいから、どうかアクワのオーバーヘッドが決まるようにと、それだけを願った試合だった。
しかしアンゴラの英雄はアクワだけでは無かった。
なるほど、今日(試合自体は昨日)のメキシコは精彩を欠いていたかもしれない。しかしそれでも13本(枠内8本)のシュートがアンゴラゴールを襲ったのだ。それらを時には前進し、時には空中に身を躍らせて防ぎ続けたのはキーパー、ジョアン=リカルドその人である。
前の試合の実況に拠れば、彼は現在どこのチームにも所属していない。実家の家業を手伝いながらトレーニングをしているそうである。日本ではちょっと考えられない境遇だが、もっと信じられないのは彼の今日のパフォーマンスである。止める、止める。強烈なミドルや1対1で放たれたシュートを止め続けて0-0の均衡を守り続けた。
サッカーの試合を観て「引き分け」を望んだりはしないのが俺のモットーだが、この試合は違った。先に書いたようにアンゴラの攻撃の手はほぼ完璧に防がれる。得点出来る気がしない。しかしゴールを許しさえしなければ「勝ち点」1を手にする事が出来るのである。
ポルトガル相手に0-1と健闘したアンゴラだが、メキシコ相手に0-0ならそれは限りなく勝利に近い引き分けである。最初はいつメキシコが入れるかとヒヤヒヤしていたが、残り10分に差し掛かったあたりではちょっと夢を見てもいいんじゃないかと思い始めた。このまま0-0?メキシコ相手に勝ち点1?恐らくこの試合が行われた昨日、アンゴラ全土が同じ夢を観ていただろう。選手全員よく守った。退場で一人欠いた事も、更に守備の意識を高める事に貢献したのかもしれない。
長い長い90分が終わり、試合終了の笛が吹かれた。その笛の音は電波に乗り空を駆け、ドイツの遙か真南にあるアンゴラの空にも鳴り響いたのだろう。
アンゴラのゴールを守り続けた彼は、この試合のMan of the Matchに選ばれた。アンゴラの勝ち点1に比べればおまけの様な勲章かも知れないが、普段は「プロサッカー選手ではない」彼の健闘を称え、その事を心から祝福したいと思う。